日本文学研究の国際化はますます重要となっています。従来、日本文学研究の国際化というと、欧米圏の研究者の招聘や、欧米圏での日本研究者の講演などがイメージされがちです。しかし、10年前と比べて、海外出身の研究者による日本文学研究の状況は大きく変化しています。そこで、具体的に、日本文学研究の国際化の方策を提案したいと思います(*私のFacebookにも投稿しました)。
1)日本国内の海外出身の日本文学研究者との間のネットワークの構築
10年前に比べて、日本の研究・教育機関に勤務する海外出身(欧米圏に限らず)の日本文学研究者は確実に増加しています。加えて、その日本文学の研究内容も変化しています。書誌学・文献学の領域にも積極的に足を踏み入れるようになっています。私も、その研究者たちから多くのことを教えられています。
しかし、その研究者たちが集まる場、情報交換する場が、現在あまり存在していないことを耳にしました。
2)日本と海外の若手研究間の交流の活発化
海外で日本研究を進めている大学院博士課程の大学院生やポスドクの若手研究者も徐々に増えています。若手の研究交流によって、次の時代に、日本の「国文学」の方法と海外のさまざまな日本文学研究の方法との協働が可能になると思います。
日本文学研究の学会で海外の研究者が発表すると、「国文学」の方法の手続きを踏まないため、日本の研究者はその発表に対して最初から批判的になりがちです。研究の手続きの瑕疵にばかり目を向けます。この傾向を、私ぐらいの年齢の高い研究者たちに「明日から変えよ」と言っても無理でしょう。むしろ長期的展望を持って、海外の日本文学研究者とも対話できる、協働できる若手を育成してゆくことこそが重要であると思います。
オンラインでの交流も当たり前になった今日、大学や日本文学研究学会にはこうした若手の交流を積極的に作ってほしいと願います。その交流の中で、日本の若手研究者も、国際学会へのエントリーの仕方やよりよいプレゼンテーションの方法などを身につけてゆくでしょう。
3)海外の日本研究機関の支援
欧米に限らず海外の日本研究機関には、すぐれた日本文学研究者がいます。高い日本語能力と研究意欲を持っています。ところが、特に欧米以外の研究機関では、研究・教育のリソースが十分ではありません。日本文学や日本文学研究書は、いまだに多くが紙媒体で、海外では入手が容易ではありません。そのため、インターネットで入手できる英語文献のみで、論文を書かざるを得ない人も多数います。日本語の文献を読みたい、使いたいという本音を彼らから聞いています。
また、海外の日本学科の学生たちも、日本文学に強い興味を持ちながらも、日本語の日本文学になかなかアクセスできずにいます。青山学院大学で協働授業を行った海外の大学生たちからは、もっと日本文学について知りたい声が寄せられました。
日本文学研究者たちが、日本語文献を使って研究を進められるような研究基盤の整備、また日本文学を学ぶ学生たちがもっと日本文学に触れることのできる環境の整備のお手伝いをすることは、今、日本の日本文学研究者に求められていることではないでしょうか。そのために、学会として、支援できることはたくさんあるあると思います。学会誌の紙媒体と同時のインターネット公開もその一つです。会員の権益を守るために、インターネット公開を紙媒体の発行よりも遅らせる、というのは不可解です。私は、学会費は学会員の利益のためというより、学会の成果を広く公開してゆくために、会員が持つ寄るものではないかと思っています。
以上のような提案について、全国大学国語国文学会第129回大会の総会で発言しました。全国大学国語国文学会に限らず、国際化を模索している日本文学研究のすべて学会に考えていただきたいと思っています。
2年間、日本文学科出身という異色の、青山学院大学国際センター所長として、大学の国際化についてのさまざまな経験を得ることができました。国際化には明確な方針と、それを実現するための具体的な方策と、交流する相手との信頼関係が極めて重要であることを身をもって知りました。
海外出身の研究者たちとの協働によって、日本文学の研究の地平は確実に広がってゆくことを夢見つつ。
(写真は、2024年4月5日に、セルビア・ベオグラード大学文献学部東洋学科日本語・日本文学文化専攻課程で「『萬葉集』の桜と〈無常感〉について」という講演をしたときの様子。学生さんたちの日本文学への関心の高さに驚きました)
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